知っておきたい遺言のこと(上)
はじめまして、こんにちは。司法書士の加藤美帆と申します。
今回は、遺言についてお話しさせていただきたいと思います。
書店を覗くと、終活、相続、遺言の文字がタイトルを飾る本が並び、皆様の関心度が高いことがうかがえます。
遺言の形式や書き方については、それらの書物に譲るとして、このコラムではその前提ともいえる、遺言の必要性や本質について述べたいと思います。
「遺言」の話を切り出すと、
①「うちには関係のない話だわ。遺言を書くほど財産もないし。」
②「まだまだ元気だから遺言は先の話。」
多くの方がこのようにおっしゃいます。
確かに、遺言は、全ての家族に必要なものではありません。
逆に遺言が争いの種になることもあります。
しかし、本当に①②のように言い切ってしまってよいのでしょうか。
①→遺言とはお金持ちの人だけが準備すべきもの?
答えは「No」です。
平成28年の司法統計によると、家庭裁判所で争われた遺産分割事件の遺産の価格帯は、1000万円以下が約33%、1000万円~5000万円以下が約42%、つまり5000万円以下が約75%を占めています。
金沢市内で標準的な一戸建てを所有している場合、その評価額をおよそ1500万円前後と考えると、遺産でもめるのは、決してお金持ちに限った話ではないということがわかります。
遺言があれば、このような争いを回避できた可能性が大きいのです。
②→遺言とは、病気や怪我などで「死を意識したとき」に書けばよい?
答えは「No」です。
遺言はいつでも書けるものではなく、遺言を書く能力(意思能力)が必要です。
つまり、自分の意思を正確に表現できる心身の状態でないと書けないのです。
認知症などにより意思能力がないときに書いた遺言は無効です。
また、意思能力が微妙な時期に書いた遺言は争いの原因になることもありますので注意が必要です。
人間誰しも、年齢とともに判断能力が低下していくことを考えると、きちんとした遺言を書くのは、元気な「今」ということになります。